娘に絵本を読んであげられない

(千葉県 40代女性 2009年4月)

おしゃべりが好き
歌うことが好き
長電話が好き
人前で発言する事が好き
ちびっ子のど自慢にも出ていた。
友達の結婚式ではトリで歌っていた。
高校時代、弁論大会で入賞した事もある

全てを奪われました。

夢の中でカラオケしていて
「あれっ!歌える!治ったんだ!やったぁ」

ふと目覚め、
現実を受け入れなければならない悔しさ、悲しみ、苦しみ…

嗚咽が聞こえぬよう
頭から布団をかぶり
声を押し殺して泣きました。

「ママ〜、絵本読んで〜!」
2歳を過ぎた頃から
娘は、私が休みの日には必ず沢山の絵本を抱いて私に言いました。

「いいょ」
全力で読もうとしても、詰まっていて、少しでも長い文になると全く話せない。

「ママ〜聞こえないょ!ちゃんと読んで!」
いらだち最後には泣き出す事もあった。

娘と同じ年頃の子はきっと
毎日、読み聞かせをしてもらってるんだろうなぁ
でもママは声が出ないんだょ。ゴメンね。

大学時代、読み聞かせボランティアで
「声優さんみたいにいろんな声が出るんだね!すごいね」
慰問先で大好評だった私は、もういない。

たった1人の娘に絵本一冊読んであげられない。
申し訳なさで押しつぶされそうだった。

それでも娘は
休みの度、私に絵本を読むようせがんだ

うまく読めない私に
苛立ち、それを見た私もガマンが出来ず
感情的に「文句言うならもう二度と読んでやらない」

2人で大泣きした事もある。
それが何度か続き
娘は私に要求しなくなった

耳鼻科の待合室で
どこかの母親が子供に読み聞かせをしているのを
羨ましそうにじっと見つめている娘を
ただ見つめ続けるしかなかった。

4歳過ぎたある日
珍しく「ママ、これ読んで」

赤ちゃんが読むような薄くて文字もほとんどない絵本を持って来た。

でも私には読めない

勇気を出して
娘にカミングアウトした

「ねぇ、もう四歳だからわかるよね。ママはね、声の出ない病気なの。普段のお話しも聞き取りにくいでしょ。だから本当はね、沢山沢山絵本を読んであげたいんだけど出来ないの。そしてこの病気は治らないの。本当にゴメンね」

だまって聞いていた娘は「じゃあアタシが読んであげる」

文字がまだよくわからない娘は自分で物語を作りながら、私に読み聞かせをしてくれました。

そしてそれから
「ママ、おノドが痛いならアメなめるといいんだょ」

ノドを気遣ってくれるようになりました。

それからしばらくして
私は注射を始め
ほんの数日間は詰まらずに話せたので
「ママもういいょ。お外で遊ぼうよ」
って言うまで読んであげた。

2009年1月手術をし、詰まりはなくなったが

気付けば娘は7歳

恐竜図鑑や偉人伝など
細かい文字を
勝手に読んでます。

いつかあなたがママになった時
ばーちゃんは
あなたの子供に
読み聞かせしてあげるからね。